複言語のすすめ

言語は世界を見る窓

平高 史也(総合政策学部,ドイツ語)

 文部科学省の「平成27年度高等学校等における国際交流等の状況について」(注1)に含まれているデータによれば、平成28年5月1日現在、英語以外の外国語の科目を開設している高等学校等は677校で、全国の高校のおよそ13.7%に当たります。延べ履修者数は44,539人となっており、高校生の約1.3%が英語以外の言語を学習していることになります。言語数は18言語(注2)で中国語が最も多く504校(履修者数17,210人)、次いで韓国・朝鮮語328校 (11,137人)、フランス語209校(7,912人)、スペイン語107校(3,244人)、ドイツ語102校(3,542人)の順となっています。
 これらの言語を教え、学んでいる現場の状況を知りたいと思い、北海道、岩手県、宮城県、大阪府、京都府、沖縄県で、さまざまな言語を開講している高等学校を訪問し、先生方や生徒たちのお話をうかがい、授業を見学させていただいたことがあります。どこの学校でも印象的だったのは、英語以外の言語の授業の明るさと生徒たちの楽しそうな様子です。それは、彼らのほとんどがこれらの言語を大学受験にしばられることなく勉強しているからというのが大きな理由だと思います。初めて見た北海道の高校のロシア語の授業に取り組む生徒たちの屈託のない笑顔は今でも心に残っています。ある学校では、校長先生が、世界で活躍する人を増やしたいという思いもあるが、それ以前に世界に出たいという思いを抱かせたいとおっしゃっていました。別の学校の先生のお話では、高校を卒業して中国の大学に入学を目指している生徒もいるということでした。文部科学省も高校生の海外留学者数を増やそうとしていますので、今後は高校時代の留学の機会をきっかけにして、海外の大学に進学する人も増えていくかもしれません。
 言語は世界を見る窓です。一か所しか窓がない部屋から見える景色は一つですが、窓をもう一か所作れば、もう一つ別の景色を見ることができます。英語に加えてもう一つ言語を学び、世界を見る窓を増やしていけば、さまざまなものの見方があることがわかり、多様な考え方が身につくことでしょう。生徒の多様性を育てるために窓の数を増やしていくのは、大人である教員の仕事ではないでしょうか。
 身近なところから始めようと思えば、たとえば、学校に在籍する外国につながる子どもたちや、地域に多い在住外国人の言語を学習するという方法が考えられます。外国語は「外国」だけで使うものではありません。国内でもさまざまな場面・場所で使えます。また、スカイプ等を用いて、日本語を学ぶ諸外国の高校の生徒に日本語を教え、彼らの言語を教えてもらう交換授業(タンデム授業)を行うのもよいと思います。国際交流基金やJICAの現地事務所に問い合わせればそういう学校を紹介してくれるでしょう。同世代の外国の生徒たちが一生懸命日本語でコミュニケーションしようとする姿は、こちらもその相手の言語を学ぼうという動機づけになるのではないでしょうか。そして、インターネットによるヴァーチュアルな出会いを通してできた友人を、実際に訪ねてみたいという気持ちにもなることでしょう。これらのプロジェクトを、外国語科の先生だけではなく、社会科、国語科をはじめ全教員で取り組み、学校を挙げて外国語の学習を通じて生徒の多様性を育むことが共生社会の実現につながり、ひいては平和な未来を作るはじめの一歩になると思います。

(注1) 文部科学省:平成27年度高等学校等における国際交流等の状況について
   http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/07/06/1386749_27-2.pdf
(注2) 慶應義塾志木高等学校では24言語を開講しています。
   www.shiki.keio.ac.jp/education/23languages/

(2018.9.7掲載)